キャラクターインタビュー スペシャル企画

2023.3.15 Wed

法医学研究員(メガネ博士) 榊原良男

法医学者は、捜査機関から運ばれてくる遺体を解剖し、その死因を究明する専門医。日本に存在するのはわずか150人しかいないと言われている。そのため、超一流のエリートがなることがあり、研究員である榊原良男氏も、そういう法医学者のエリート中のエリートである。

その専門的な知識と技術力については、一般人では理解することができない部分も多々あるものの、テレビの報道特番などで専門家として意見することもあり、分かりやすく法医学の見地から事件の真相について解説することもあった。また、犯罪捜査の研究家としても国立の専門大学院にも特任教授として席を置き、また本業である法医学の教授も掛け持ちし、日々アップデートされる最先端の法医学学界の知識人として研鑽を重ねており、論文も法医学学界と犯罪捜査研究学界に多数執筆するなど多忙を極めている。

そのようなバックグラウンドと活動履歴がありながらも、子供たちでも理解することができるような初歩的な犯罪捜査と法医学の基礎中の基礎を伝える番組『名推理犬と追いかけっ子』のレギュラーコメンテーター(メガネ博士)として最近にわかに人気を博すようになり、お茶の間の子供たちの間でも、名推理犬のメガネの博士として広く認知されるようになった。

きっかけは、法医学者としての犯罪捜査から一線をのき、純粋な研究員としての活動を主にすることになったということもあったのだが、ご本人が、子供たちに法医学に興味を持ってもらいたいという強い意志の現れがあり、報道特番での実績も買われ番組が立ち上がった経緯がある。

真面目すぎて難解だと子供はとっつきにくく、敬遠する傾向があるが、名推理犬のキャラクターぽうとの掛け合いで、創作された事件を解決していくやり取りは、この番組の登場人物でありながら、監修も専門家としてしているだけに、小気味よくまた明解な推理と検証・解決方法で人気を博していた。

今回は、その番組についてと、法医学者としての権威としてご活躍された自分史にもスポットライトを当て、子供たちに人気の名推理犬ぽうとメガネ博士の誕生秘話について語っていただくことになった。(大人と子供の教育誌『さらだ』)

まずは、簡単な自己紹介をお願いいたします。
出身は千葉県です。平成3年にT大学医学部を卒業して、同大学大学院法医学教室に入り、助手、講師、助教授を経て、平成13年からC大学大学院法医学教室教授になりました。
法医学者になろうと思ったきっかけはなんですか?
ずばり、西丸與一先生の「法医学教室の午後」を読んだからです。
医師の中でも、日本に150人くらいしかいないという希少な職業ですが、それを目指すまでに苦労したことはなんですか?
いや、実は、卒業生の中で法医学を目指す人は少ないです。まあ、地味な分野ですからね。だから、法医学の大学院に見学に行った時も、皆さん、と言っても10人もいませんでしたが、とっても歓迎してくれました。むしろ同級生が、法医学なんかに行くの?とか言うので、それに何と答えるかで苦労しました。法医学教室に入ると、大学院生は自分を入れて5人で、とても仲間意識を持てたので楽しかったです。だから苦労したのは、現場に出るようになってからですね。
犯罪捜査に関わる遺体を解剖されるわけですが、解剖するにあたる心境とはどのようなものでしょうか?
解剖は主に教室に運ばれてから行うのですが、まれに現場に駆けつけて行うことがあります。その時にはやはり事件とか事故の現場なので、なかなか冷静ではいられません。特に殺人現場などでは、その前後の状況なども想像されるので、思わず手が震えそうになるのを必死で抑えて冷静になるよう自分に言い聞かせます。気を付けているのは指先で、指先に傷があると遺体に触ったときどんな感染を起こすか分かりません。さいわい気を付けてきたせいでそのようなことはありませんでした。教室に運ばれてきた遺体については、もう少し心の余裕を持って臨める感じです。そういう時は、その人がたどってきた人生に思いを馳せたりもします。もちろん犯罪被害者の遺体の場合は、突然断ち切られた人生の、無念さ、口惜しさ、悲しみなどがふいに胸を突いてくることもありますが、冷静な判断を曇らさないようにということはいつも気を付けています。
また、事件が起きなければ、遺体になることのなかった命について、事件を未然に防ぐためには何が重要だと思いますか?
「死体は今日も泣いている」。このことの意味が分かりますか? 日本では法医学、特に遺体解剖による死因の究明が遅れています。法医学の体制をもっと整えて、遺体が死因不明のまま放置されることをなくさなければなりません。死因がもっと明確になれば、それがどのような事件によるものかが分かり、ひいては事件発生の予防の方策を考究することが可能になると思います。
遺体から語られる真実を検証されるわけですが、単なる仮説ではなく、医学的かつ科学的に論証されていくわけですが、憶測で語られる事件の仮説が覆されることは、やはりかなりあるのでしょうか?
うーん、それは我々の業界については、そのようなことはありませんね。我々は憶測で考えることはありません。医学的かつ科学的な事実だけに基づいて仮説を作ります。我々の世界には、分からないということはありますが、あいまいな仮説の余地はありません。ただ裁判となると、裁判官の方が憶測の仮説にもとづいて裁判を勧めようとしているように感じられることはあります。こちらの報告に対して、あたかも意図的に虚偽を述べようとしているかのように激しく叱責される裁判官がいましたが、まあ、これは珍しいケースですが、こちらは依頼を受けて検証作業を行っているわけですから、何か意図的に事実を捻じ曲げようとしているかのようにとられるのは非常に腹立たしいことです。今後はこのようなことはないようにしていただきたい。しかしおかしなことですが、こちらが年を取ってくるとそういうことはなくなってきましたね。若造の頃はなにやかにやと言われて、悔しい思いをしたことも多々あります。
話は番組について触れさせていただきますが、メガネ博士として登場し、創作された事件を法医学の視点から真実にたどり着く展開で、子供達から反響がかなりあると思いますが、子供向けに法医学を伝えようと思ったきっかけはなんですか?
先ほども申しましたが、日本では法医学が遅れています。そもそも遺体解剖の全数が少ない。政府に掛け合ったこともありますが、やはり動かないですね。だから、そもそも法医学に興味を持ってもらうことが大事なのではないかと思いました。その時思い出したのが、これです。ハウ?ハウ?ハウ? インディアンじゃないだよ、英語でどしてって聞いてんだ(笑)。いや~、古いですね。知ってます? ケペル先生ですね。いや~、自分でも実は全然覚えてないんですけど。あと、ブーフーウー三匹の子豚のウーだったかな? なぜかオシャレで、スペインの闘牛士の服を着てるんですよね。知ってました? ん? 話がそれましたね。何の話でしたっけ? そうそう、ケペル先生がね、子どもにいろんなことを教えてあげるんですよ。子どもの頃見ていた覚えが微かにあります。だからね、子どもの頃から興味を持ってもらえたらいいなと思ったんです。
実際ご自身が番組に出演されて、反響があるかと思いますが、どのような反響が多いのでしょうか?
嬉しいですね、とても面白かった、法医学に興味を持ったというお葉書を下さる方が結構います。あの、お葉書には、5才(+10才)とか書かなくていいですからね。
名推理犬ぽうの推理も的確ですが、ぽうは遺体解剖できません。推理と、解剖で分かる真実の差異もあるかと思いますが、子供達はやはり法医学者より、推理する名探偵が好きなのでしょうか?
ありがとうございます。ぽうはあくまで推理する犬ですからね。人気が出て嬉しいです。決して手を入れて動かすぬいぐるみみたいなものじゃないです。しゅと犬くんだってそうですよね。しゅと犬くんはしゃべらないところが、ぽうと違いますが、やはり立派な一人の犬格です。「さて、遺体の解剖調査は終了したが、ぽう、これは事故かな?」「ぽう~?(首をかしげる)」「それとも殺しかな?」「ぽうぽう!(両手を開く)」「動機はストーカーの逆恨みかな?」「ぽうぽうぽう!!(激しく手をたたく)」。自分の動きとぽうの動きがシンクロしないようにするのが難しいですね。子どもはやはり名探偵が好きですよね。
法医学者というのは子供達にとって、どのように思われていると思いますか?
やっぱりちょっと気持ち悪いと思われてるんじゃないですかね。死体をいじったりする訳ですから。まあテレビ画面では、皆さんご存じのように、あまり死体らしい死体が映らないように工夫はしていますが。昨年の11月は放送事故でしたね。むごたらしい死体が一瞬映ってしまって、夜食中だったとか、だいぶ苦情のお葉書をいただきました。今後はこういうことはないと思います。ないんじゃないかとは思います。ないかな? まあ、法医学の世界の話ですから、どんなシーンが映りこむか分かりませんので、まあちょっと覚悟はしておいてください。別に狙っている訳じゃないですよと。
もしご自身が子供時代に、この番組を見たら、どのような感想を持つと思いますか?
いやいや、こういう番組をこそ見たかったですね。昔ディズニーランドのテレビがあって、4つの国があって、動物の国とおとぎの国と科学の国と、あともう一つあって、そのどれかをやるんですよね。で、いつも、科学の国をやらないかなあと思うのに、いつも動物の国なんですよね。だから何だって話ですが。
医師になるのもかなり勉強できないといけませんし、その医師の中から法医学者になる人は本当に一握りかと思いますが、法医学の教授として後進を育てるのに苦労することはなんですか?
やはり法医学の重要性を訴えていくことですね。医学部の卒業生を勧誘したりするんですが、なかなか来ないんですよ。寿司食わせてもね~。結局高いものを食わせても逆効果で、ちょっと意外なのが来たりして、そういう奴の方が、法医学教室にはなじんでくることが多いですね。
子供が本当に法医学者になりたいと思っているとしたら、なんて言ってあげたいですか?
法医学者になりたいなら、しっかり医学の勉強をしなさい、でもすぐれた法医学者になりたいなら、医学以外の勉強をしっかりしなさい、というのはどうですか? 言ったことないけど。
ちなみにご自身は法医学者なども登場する推理小説や推理ドラマなどについて、どのような見解をお持ちですか?
いやいや、最近の小説家の先生方は、よく取材をしてますよ。こちらが感心させられることも多いです。でも、ドラマでは、ちょっとね~っていうのもありますね。
フィクションの事件と、実際の事件との違いについて、ご意見をください。
これはもう一言、事実は小説よりも奇なり、これですよ。
報道番組では、実際の事件についてコメントを求められるわけですが、最近の刑事事件は、昔と比べて、何が違うと思われますか?
それを考えると惨憺たる気分になりますが、いろいろ考えると、最近の事件は、結局のところほとんどが貧困の問題からきていますね。昔はそんなことはなかった。いや、そうかな? どうなんだろう? 現代の事件は、何かやけくそな感じがしますね。
報道番組では、亡くなった被害者自身の人物像についても、色々と語られたりするわけですが、遺体に残ったメッセージは、何よりも痛烈かと思いますが、あえて、それを報道番組で語る理由について教えてください。
あえて語るというか、遺体がそれを語ってるんですよね。先ほども言いましたが、「遺体は今日も泣いている」んですよ。だから私が語るんじゃない、ご遺体が語るんだと思っていただきたい。私はそれを何とか取り持っているだけです。もう一度言います。「遺体は今日も泣いている」
特に凶悪な殺人事件については社会的影響力も強く、遺族を含め、とても重い問題ですが、犠牲になった被害者について、いつもどのような気持ちになりますか?
う~ん、これは難しいですね。そういう事件ほど、冷静を保つようにと自制していますから。そのかわり、その事件が一段落したら銀座九兵衛に行って寿司を食べます。嘘です。法医学者はそんなに金持ちじゃないです。テレビも文化人枠なのでギャラが安いです。
法医学者としての誇りがあるとしたら、それはなんですか?
日本の平和のために貢献しているという気概ですね。それなりに日の丸しょってるって感じですか?
話は個人的な話題に移りますが、ご趣味はなんですか?
最近は、そば粉をこねてガレットを作ります。
休日は何をされていますか?
上で言った趣味とかしてます。
好きなものと嫌いなものを教えてください。
気の利いたことを言えればいいんですが、特にないですね。あえて言えば、美味しいものは何でも好きだし、そうでないものはあまり好きじゃないかも。
話は番組に戻りますが、子供向けの法医学番組を監修し、出演しようと思った経緯に、やはり子供に何かを託したいという思いがあったのでしょうか?また、子供に伝える難しさなどがあれば教えてください。
最初は苦労しましたね。何かを伝えようと頑張ると、かえって空回りして引かれるみたいです。だから、あの時ですかね、ぽうがこけて、知らずに素手でやってしまいそうになった時に、アシスタントさんが機転を利かせて、ぽうになって「ぽうぽう」ってやってくれた時ですかね。あの時は恥ずかしくて大笑いしましたが、それからは自分が楽しめばいいんだって開き直ったですかね。今では結構自然体で、子どもとも自然に関われる感じです。
番組で創作した事件は、本当の創作ですか?元となった事件があるとも、ネットで騒がれてますが。実際のところ、どうなんでしょうか?
ふっふっふ、あれは実は…事実なんです! って信じますか? ご想像にお任せします。
今後の活動や、展望について語ってください。
ここで告知です。実は番組は終了になります。が、4月から、さらにパワーアップして、リニューアルした新番組が始まります。題して「名推理犬と追いかけっ子2――その時、法医学者は見た!ぽうの事件簿」。ぜひ見てくださいね~。
最後に番組の告知と、法医学の未来についてコメントをお願いします。
あ~、もう告知しちゃいましたね。法医学の未来もそんなもんです。常に前のめりで先走っちゃうと言う。まあ、それぐらいの気持ちでやらんならんということやと思います。